飲食業界では、長時間労働に対して年収が低いと感じている人が多くいます。この記事では、飲食業界の平均年収の実態や年齢・性別による違い、他業界との比較、年収が低い理由を解説します。記事を読めば、飲食業界で年収を上げる方法や、他業界への転職を成功させるためのポイントを把握可能です。
飲食業界全体の平均年収は約350万円で、全産業の平均年収約436万円より、約86万円低い水準となります。20代の若手社員の場合、飲食業界では250~300万円程度の年収が一般的です。
飲食業界の平均年収

飲食業界の平均年収を、以下の項目別に解説します。
- 飲食業界全体の平均年収
- 職種別の平均年収
- 企業規模別の平均年収
飲食業界全体の平均年収
飲食業界全体の平均年収は約350万円で、全産業平均の約436万円と比較すると、かなり低い水準にあります。厚生労働省の調査によると、飲食サービス業の平均月収は約25万円です。
非正規雇用(アルバイト・パート)の割合の高さも、飲食業界全体の平均年収を押し下げる要因となります。新卒の初任給は月18〜22万円程度で、他業界と比べても控えめな傾向です。勤続年数別の平均年収は以下のとおりです。
勤続年数 | 平均年収 |
5年未満 | 300万円前後 |
10年以上 | 400〜450万円程度 |
飲食業界の年収は地域による差も大きく、東京などの都市部では地方よりも15〜20%程度高い年収が得られる傾向があります。営業形態によっても年収に違いがあります。24時間営業の店舗や深夜営業がある業態では、深夜手当が加算されますが、ボーナスは一般企業より少額の場合が多くなります。
職種別の平均年収

飲食業界の職種別の平均年収は、以下のとおりです。
職種 | 平均年収 |
店長・マネージャー | 350~450万円 |
料理長・シェフ | 400~600万円 |
ホールスタッフ | 250~350万円 |
キッチンスタッフ | 270~380万円 |
バーテンダー | 300~400万円 |
ソムリエ | 350~500万円 |
パティシエ | 300~450万円 |
フードコーディネーター | 400~600万円 |
栄養士 | 350~450万円 |
飲食店オーナー | 300~1,000万円以上 |
フランチャイズオーナー | 400万円~700万円 |
飲食店コンサルタント | 500万円~800万円 |
店長・マネージャーの年収は、店舗規模や売上により変動します。料理長やシェフの年収は高級店や有名店では700万円以上になる場合もあり、専門性の高いポジションほど収入が上がる傾向です。ソムリエも高級店では600万円以上の年収が期待できます。
飲食店オーナーの場合は収益によって大きく変動し、フランチャイズオーナーは店舗数に応じて年収が変わります。
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企業規模別の平均年収
平均年収は、企業規模が大きいほど、給与水準も高くなる傾向があります。大手チェーン(従業員1,000人以上)では年収400〜500万円程度が一般的です。上場企業の正社員になると平均年収は450〜550万円まで上がり、飲食業界の中ではトップクラスの待遇です。役職手当や賞与も充実しているケースが多くなります。
中堅企業(従業員100〜999人)になると、年収は350〜420万円程度に下がります。非上場企業の正社員の平均年収は350〜450万円程度で、大手よりも低い傾向です。
小規模企業(従業員30~99人)では年収320〜380万円程度、零細企業(従業員29人以下)では年収280〜330万円程度です。個人経営の飲食店では年収250〜300万円程度となります。
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飲食業界の年齢・性別による年収の違い

飲食業界の年収の違いを年齢・性別別に解説します。キャリア形成や、今後の働き方を考える際の参考にしてください。
年齢別の年収
飲食業界の年収は、年齢が上がるにつれて緩やかに上昇する傾向があります。年齢層ごとの平均年収は以下のとおりです。
年齢層 | 平均年収 |
20代前半 (20~24歳) | 約250~300万円 |
20代後半 (25~29歳) | 約320~350万円 |
30代前半 (30~34歳) | 約350~400万円 |
30代後半 (35~39歳) | 約380~430万円 |
40代 | 約400~450万円 |
50代 | 約420~480万円 |
飲食業界の年収は、他業界に比べると伸び幅は控えめな点が特徴です。
男女別の年収
飲食業界では男女間の年収に明確な差があります。男性の平均年収約350万円に対して女性は約280万円と、約70万円もの差が生じています。男女間の年収差は、職種の違いによるものです。調理職は男性が多く、技術や経験に応じて年収が上がりやすい傾向です。
接客職は女性の比率が高く、年収の上限が低めに設定されているケースが多く見られます。深夜勤務や残業が多い店舗では男性の比率が多く、深夜手当などで年収差が生じます。パート・アルバイトにおいても、時給自体に大きな差はなくても、男性の方が長時間勤務の傾向があるため月収差につながります。
管理職では男性約450万円、女性約380万円と差が広がる傾向です。
飲食業界と他業界の年収の比較

飲食業界と他業界の年収を、以下の項目に分けて比較します。
- 飲食業界と製造業の年収比較
- 飲食業界とIT業界の年収比較
- 飲食業界と医療業界の年収比較
飲食業界と製造業の年収比較
飲食業界の平均年収は約350万円ですが、製造業は約450万円で、製造業の方が約100万円高い傾向にあります。製造業の年収が高い理由は以下のとおりです。
- 安定した需要と生産性の高さ
-
製造業は計画的な生産が可能で、効率化によって1人当たりの生産性を高められる
- 雇用形態
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製造業では正社員比率が高く、飲食業界は非正規雇用が多い傾向にある
- 勤続年数
-
製造業の平均勤続年数は10年以上だが、飲食業界は約5年と短い
長く働くことで昇給や昇進の機会が増える - 賞与
-
製造業の平均賞与は3〜5か月分が一般的だが、飲食業界は1〜2か月分程度である
- 残業代
-
製造業では深夜勤務手当や残業代が支給される傾向にある
飲食業界ではサービス残業が多く、実質的な時給が低下しがちである
飲食業界とIT業界の年収比較

飲食業界の平均年収は300〜400万円台ですが、IT業界は500〜700万円台とその差は約1.5倍以上です。IT業界では、未経験からエンジニア職として入職しても400〜450万円からスタートできる場合が多くあります。飲食業界では、経験年数を重ねても年収の上昇が緩やかな傾向にあります。
IT業界では経験やスキルに応じて急速に年収が上がり、5年目には600〜800万円に到達する人が多い点も特徴です。飲食業界では労働時間の長さの割に残業代が出ないケースが多いですが、IT業界では残業手当が適切に支給される傾向にあります。
飲食業界と医療業界の年収比較
飲食業界の平均年収は300〜400万円程度ですが、医療業界は500〜600万円です。飲食業界と医療業界の年収を比較すると、約100〜200万円の差が生じています。飲食業界と医療業界の年収差は、職種によって一層広がります。
医師の平均年収は約1,200万円で、飲食業界の平均の3倍以上です。看護師も450〜500万円と、飲食店の店長(400〜450万円)よりも高い水準になります。医療事務は350〜400万円程度で、飲食業界の一般スタッフと同等のレベルです。
飲食業界の年収が低い理由

飲食業界の年収が低い理由は、以下の3つです。
- 労働時間と年収の関係
- 離職率の高さ
- 競争の激しさと利益率
労働時間と年収の関係
飲食業界では、長時間労働が年収アップに直結しない点が問題です。月に80〜100時間の残業をしている正社員でも、年収が300〜400万円台にとどまるケースが多く見られます。深夜手当や休日手当が基本給の低さを補う状況や、固定給制度では労働時間が長くても給与に反映されない問題があります。
労働基準法違反のサービス残業が存在し、実質時給を下げているケースも多い傾向です。店長やマネージャー職でさえ、責任の重さと労働時間の長さに見合った年収上昇が見られないケースが目立ちます。
労働時間の長さよりも、顧客単価や店舗売上に連動した給与体系を採用する店舗の方が、従業員の年収が高い傾向にあります。
離職率の高さ

飲食業界の離職率は他業界と比較して年間約30%と高く、新卒入社者の約半数が3年以内に退職しています。飲食店の高い離職率により人材育成にかかるコストが増え、従業員1人当たりに支払える給与は減少します。
飲食業界では、頻繁な人員の入れ替わりによって店舗運営が不安定になりやすく、業績の向上が難しくなるといった悪循環に陥りがちです。早期離職の主な理由は以下のとおりです。
- 長時間労働
- 低賃金
- 休日の少なさ
- キャリアパスの不透明さ
コロナ禍以降は休業や時短営業の影響で収入が不安定になり、一部地域では離職率が一段と悪化しました。大手チェーン店と個人経営店舗では離職率に差があり、雇用の安定性にも影響が出ています。
競争の激しさと利益率
飲食業界は参入障壁が低く、多くの新規店舗が開業しています。新規出店により市場内の競争が激化し、各店舗は生き残りをかけた価格競争に陥りやすい傾向です。熾烈な価格競争により、飲食業の平均営業利益率は約5%程度と、他業種と比べて低い水準にとどまっています。
飲食業界で年収を上げる方法

飲食業界で年収を上げる方法は以下のとおりです。
- 役職に就いてキャリアアップを目指す
- 高収入の職種や業態を選ぶ
- 資格取得で手当を増やす
役職に就いてキャリアアップを目指す
飲食業界で年収を上げるには、店長やマネージャーなどの管理職を目指す方法があります。基本給がアップするだけでなく役職手当も付くため、収入が増加します。
大手チェーン店では役職体系が整備されているので、キャリアアップの道筋が見えやすいのが特徴です。店長から複数店舗の統括責任者、エリアマネージャーやスーパーバイザーへと、段階的にステップアップできる環境が整っています。
店長やマネージャーなどの役職に就くためには、数値管理能力が重要です。売上目標の達成率や食材のロス率、人件費率などの数字を適切に管理して、実績を出すことが昇進への近道です。部下の育成スキルも、管理職として評価される重要な要素になります。スタッフの能力を引き出し、チーム全体のパフォーマンスを高められる人材は、上位の役職への昇進可能性が高い傾向です。
本部機能(人事・マーケティング・商品開発など)の管理職ポジションも検討する価値があります。将来的には、フランチャイズオーナーになる道や、独立支援制度を利用する選択肢も考えられます。
高収入の職種や業態を選ぶ

高収入の職種や業態を選ぶのも、飲食業界で年収を上げる方法です。現在の飲食スキルや知識を生かしつつ、より高収入が見込める職種は以下のとおりです。
- IT系飲食企業や大手飲食チェーン本社の企画職
- 高級レストランやミシュラン星付き店のシェフ
- ホテルレストランの調理師・マネージャー職
- FCオーナーやエリアマネージャー
- 外食コンサルタント
食品メーカーの商品開発職や飲食関連の営業職も、飲食業界で培った知識や経験を生かしつつ、高い年収を得られます。
資格取得で手当を増やす
資格取得で手当を増やすのも、飲食業界で年収を上げる方法の一つです。飲食業界では、さまざまな資格に対して手当を支給する企業が多くあります。飲食業界における資格と手当の目安は以下のとおりです。
資格名 | 手当の目安(月額) | 備考 |
調理師免許 | 5,000~10,000円 | 調理の基礎知識を証明 |
食品衛生責任者 | 3,000~5,000円 | 食品衛生に関する知識を証明 |
ソムリエ・バーテンダー資格 | 5,000~15,000円 | 専門スキルを証明 |
栄養士・管理栄養士資格 | 10,000~20,000円 | 専門知識を証明 |
衛生管理者 | 5,000~8,000円 | 店舗の衛生管理に関する知識を証明 |
防火管理者 | 3,000~5,000円 | 店舗の防火管理に関する知識を証明 |
英語・その他外国語検定資格 | 3,000~10,000円 | 語学力を証明、インバウンド対応 |
フードコーディネーターやカフェプランナーといった専門資格は、商品開発担当としての評価につながります。最近ではITスキル関連の資格も、店舗のデジタル化推進担当として重宝されています。
» カフェ正社員で働くメリットと求められるスキルを解説
飲食業界からの転職を成功させる方法

飲食業界からの転職を成功させる方法は、以下のとおりです。
- 転職エージェントを活用する
- 自己PRを行う
転職エージェントを活用する
転職エージェントを活用し、プロの視点からサポートを受けると、効率的かつ効果的な転職活動が可能になります。業界知識と転職ノウハウをもったプロフェッショナルが、転職活動を全面的にサポートしてくれます。飲食業界からの転職に強い、実績のある転職エージェントを選びましょう。
転職エージェントが提供するサービスは以下のとおりです。
- 面接対策や履歴書・職務経歴書の添削
- 飲食業界で培ったスキルの転用方法の紹介
- 未経験でも応募可能な求人の紹介
- 給与交渉のサポート
- 転職市場の情報提供
複数の転職エージェントを併用すると、より多くの求人情報にアクセスできます。単に登録するだけではなく、定期的にエージェントと連絡を取り、求人情報の更新を確認しましょう。
» 飲食業から転職するための方法を紹介
自己PRを行う
飲食業界からの転職を成功させるには、自己PRが大切です。飲食業界で培ったスキルを数値や具体例とともに伝えましょう。接客経験で培われた対人コミュニケーション能力は、円滑な人間関係を築くうえで不可欠なスキルです。社内外を問わず、多くの人と協力して仕事を進めるうえで強みとなります。
繁忙時間帯での効率的な時間管理能力は、常に状況が変化する飲食店において、優先順位を判断した経験から培われた能力です。限られた時間の中で成果を求められるビジネスシーンにおいて、即戦力としてアピールできます。
チームでの協力体制を築いた経験は、互いを尊重し、助け合いながら目標達成を目指すチームワークの重要性への理解を示せます。組織の一員として周囲と連携し、貢献できる人材であると印象付けることが可能です。
クレーム対応などの問題解決能力は、予期せぬトラブルや困難な状況に直面した際に、冷静に解決策を見出せます。売上向上に貢献した具体的な数字は、目標達成意欲と成果を出す能力を示す強力なアピールポイントです。
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まとめ

飲食業界の平均年収は他業界と比較して低く、長時間労働や高い離職率、業界の競争激化が要因となります。飲食業界で年収を上げるには、役職に就いてキャリアアップを目指す方法や、高収入の職種や業態を選ぶ方法があります。資格取得で手当を増やす方法も効果的です。
飲食業界から異業種へ転職するなら、飲食業界で培ったスキルの活用や、転職エージェントの利用が効果的です。飲食業界で身に付けたコミュニケーション能力や対応力は、他業界でも十分に通用する強みとなります。
» 異業種転職しやすい業界や職種とは?成功させるポイントを解説